韓方について
『韓方』は新生児から高齢者まで深く浸透している伝統的な医学で、そのルーツは中医学にあります。
韓医学の書籍には名書が多くありますが、『医方類聚』(金礼蒙他)『東医宝鑑』(許浚)『方薬合編』(黄度淵)『東医寿世保元』(李済馬)が代表的です。
韓方は2009年にユネスコ世界遺産となった「東医宝鑑」に原点があり、韓医師であるホジュンが貧しい庶民の為に処方した「※単方」は、400 年の時を経て現在まで脈々と受け継がれています。
その後イ・ジェマが170年前に書いた『四象医学』は、人の体質を太陽人・小陽人・太陰人・小陰人の4つのグループに分けて、それぞれの特徴に合わせた処方と養生法を行うというもので、世界的にも高く評価され特に注目されています。
※単方:簡単に手に入る薬剤1種類のみを使用して薬とすること
私と韓方の出会い
韓国には 「手の味(ソンマッ)」という言葉があります。
韓国料理の美味しさは、1. 素材 2. ヤンニョム 味付け 3. ソンマッ 手の味 で決まると言われていますが「手の味」とは、包む・混ぜるが多い韓国料理において箸や 匙で 材料や調味料を混ぜ合わせるのではなく、手を使って料理をすることで、染み込み具合や味の加減に違いがでる、という意味合いをもっています。韓国では「手の味がある」という使い方をしますが、いわゆる料理上手といったところでしょうか。
私の祖父母は小さな韓国食材店を営んでおり、祖母は近所でも有名な「手の味」の持ち主でした。春が訪れると祖母と一緒に山に入り、ワラビ、タンポポ、セリやウドなどの山菜を摘んだことが懐かしく思い出されます。祖母の手によって生まれ変わった四季折々の料理が私も大好きでした。
干しダラのスープ(プゴクッ)は美容効果が高いと 日本でもよく知られており非常に美味しいのですが、いたずらをするとスープになる前のカチカチの干しダラで祖父に ふくらはぎを叩かれたこと…。庭にあるビワの葉は乾燥させて茶にして飲むと、血液が浄化され骨も丈夫になると教えられ成長期にはよく飲んでいたこと… そんな思い出 がいくつも頭をよぎります。
幼い頃から韓方が日常生活に溶け込んだ環境で成長したので 「食べる物はすべて薬」という考え方はごく当たり前のように私の中にありましたが、当時は「韓方」も「漢方」も東洋医学としてひとくくりに考えていました。
その頃、母が病に倒れ、母にとっても馴染み深い韓方で少しでも元気になってもらいたいと考え、東洋医学の中核となる「中医学」を学び始めるきっかけとなりました。その中で 「中医学 中国」 「韓医学 韓国」、「漢方医学 日本」はそれぞれ独自のもので、成り立った背景や治療に対する考え方、治療法まで異なるということを学び、強い感銘を受けました。
そして韓方は ユネスコ世界遺産 となった 「東医宝鑑」 に原点があること、韓医師であるホジュン先生が貧しい庶民の為に処方した「※単方」は、400年の時を経て親から子へと脈々と受け継がれてきたことなどを知り、心震える思いと共に韓方を身近に取り入れて成長してきたことを誇りに思いました。
※単方:簡単に手に入る薬剤1種類のみを使用して薬とすること
当初は韓方をもっと 知りたいという気持ちで学び始めましたが、その素晴らしさを知るにつれ、韓国人の日常生活の中に自然に溶け込んでいる「韓方」 を もっと多くの方々に伝えたい、知って頂きたいという思いに変わっていきました。
現在まで、西洋医療で多くの方が助けられ 有難い反面、予防や心身の労わりよりも病気になってからの「治療が優先」となっている現状があると感じています。恵まれた医療によって無意識に医療依存になっている方が多く、自分に対する心身を労わる意識の変化が重要なカギになると捉えています。
中医学の考えを基に、数百年をかけて培われてきた「韓方」で、健康の知恵を一緒に学んでいきましょう。
一般社団法人 日本韓方協会
代表理事 金 允愛